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『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』オススメ度 6/10

ベンジャミン・バトン 数奇な人生

 うーん、長いのにそれなりに退屈せずに見れたことから、単体で見ればかなりいい作品だったのかもしれないが、

  • 『フォレスト・ガンプ』
  • 『タイタニック』
  • 『火の鳥』宇宙編
  • 『アルジャーノンに花束を』

 等の様々な要素をとってつけて、全て中途半端みたいな器用貧乏の印象がどうしても否めない。積極的にオススメはしないかな。

おまけ

 数寄つながり。

長沢和也 編著『フィールドの寄生虫学―水族寄生虫学の最前線』

フィールドの寄生虫学―水族寄生虫学の最前線

 寄生虫ほど人の心を捉える生物もそうはないだろう。ただしマイナスの方向にだが。口絵からして気色悪さ全開だが、『ペンギンもクジラも秒速2メートルで泳ぐ』でも感じた現代博物学の面白さもあるので、こういう生物系が耐えられる人なら一読してみてもよいのでは。

 しかし、これで思い出したが『パラサイト・レックス』は一度きっちりおすすめしておく必要がありそうだ。寄生虫のみならず寄生という概念そのものに生じた――今も生じつつある――ダイナミックな変化を描いた最高に面白い一冊だから。

参考リンク

関連書籍

おまけ

2009/03/12(木) | 科学技術哲学 | 固定リンク |

ポール・ポースト『戦争の経済学』

戦争の経済学

 一つ前の『テロの経済学』にも通じる内容だがこちらも結構面白い。要点からさらに抜粋してメモしておく。

  • 第1章 戦争経済の理論
    • マクロ経済学的な要点
      • 戦争は2種類の影響をもたらす:心理的影響と現実的影響。
      • 軍事支出によって総需要を増やすと、経済を不況ギャップから引っ張り出せるけれど、そうした支出はインフレの原因にもなる。
    • ミクロ経済学的な要点
      • 生産要素(特に資本と労働)がどれだけ動員されるかは、戦争の経済的影響を決める大きな要因となる。
  • 第2章 実際の戦争経済:アメリカの戦争 ケーススタディ
    • マクロ経済学的な要点
      • 20世紀初期の戦争――第一次世界大戦、第二次世界大戦、朝鮮戦争――は文句なしに戦争の鉄則を支持するようだ。
      • 条件がそろえば戦争は経済にとって有益だが、特にベトナム戦争以降の最近の戦争は、経済に役立つ戦争となるための基準の多くを満たしていない。
    • ミクロ経済学的な要点
      • 近年の戦争は、政府との契約を受けられる個別企業にとって有利だった。
      • 現役/予備役比率が下がるにつれて、最近の戦争は予備役兵たちが現役兵として駆り出されるコミュニティに被害を与えている。
  • 第3章 防衛支出と経済
    • マクロ経済学的な要点
      • アメリカの軍事支出と民間の投資との間にはごく弱い負の相関しかない。
      • アメリカの防衛費は経済の規模に比べればそこそこの水準でしかない。
      • 兵器が国家安全保障をどこまで実現できるかは、限界収穫の逓減に制約されている。
    • ミクロ経済学的な要点
      • ゲーム理論は、安全保障のジレンマ(各国が相手に軍事紛争で負けまいとして、相手よりもたくさん兵器を貯めこもうとし続けること)を示せる。
      • 国を武装するためには民間部門からリソースを奪うことになるので、軍拡競争は生産可能性フロンティアの小さい経済にとっては有害となりやすい。
  • 第4章 軍の労働
    • マクロ経済学的な要点
      • AVF制を使う国は、徴兵制を使う国よりも1人あたりの費用が高くなる。徴兵制は、政府が軍事支出を抑える手段となる。
    • ミクロ経済学的な要点
      • 徴兵制は、比較優位を無視するので非効率となる。AVFのほうが経済的機会費用が低く、同額での軍の有効性は高くなる。
      • 効率賃金のおかげで最も生産性の高い軍人は民間軍事会社(PMC)に引き抜かれがちだ。PMCが雇える高質な候補者の巨大なプールが確保されるが、もともとその軍人を雇って訓練した政府にとっては多くのコストをもたらす。
  • 第5章 武器の調達
    • マクロ経済学的な要点
      • 兵器計画に使われるアメリカ政府の支出は、絶対額は大きいが、1980年代に比べればずっと少ない。
    • ミクロ経済学的な要点
      • アメリカ政府は独占需要家であり、選定された業者は独占企業となるので、国内兵器市場は相互独占市場となる。
      • 兵器価格がすさまじく高くなるのは、交渉力、不確実性、モラルハザードが関わっている。
  • 第6章 発展途上国の内戦
    • マクロ経済学的な要点
      • 内戦は最近になって頻度が増えたばかりでなく、期間も長くなった。
      • 内戦は、その国を貧しくするばかりでなく、周辺国の経済にも被害を及ぼす。
    • ミクロ経済学的な要点
      • 内戦はもっぱら、貧困や水平的格差、原料産品への依存といった経済的要因から生じることが多い。
      • 需要と供給の法則のおかげで、AK-47の値段を見るとその国の紛争状況がわかる。
      • 平和維持活動は公共財(非排除、非競合)だ。でも平和維持軍は共通資源(非排除だが競合)だ。
      • 平和維持活動はアメリカなど先進国にとっては経済的に非効率だ。軍事行動の限界費用が限界便益を上回ってしまうからだ。
  • 第7章 テロリズム
    • マクロ経済学的な要点
      • 1回限りのテロ攻撃は、9・11同時多発テロほど大規模なものでさえ、短期的には経済に被害を与えるものの、長期的にはほとんど何の影響ももたらさない。
      • 連発するテロ攻撃の主な被害者は観光と経済のグローバル化だ。
    • ミクロ経済学的な要点
      • テロ攻撃が効率を増しているのは、代替効果のおかげだ。政府機関や航空機のセキュリティが強化されると、テロリストたちはそれにかわってソフトな標的をねらうようになっている。
      • 人々が公共的な財をほしがるが、政府がそれを供給できないために、人々はテロ組織に加わることがある。
      • 拡張形式ゲームは、なぜ政府が市民権を認めないときに集団が非合法な表現形態に走るかを説明する。また非合法活動の中でなぜ爆弾テロが選ばれるのかも説明できる。
      • 個人が端点解に到達してしまうと――つまりその人の無差別曲線が片方の軸に接してしまうと――その人にとっては自爆テロが合理的になってしまう。
      • 費用便益分析によって、なぜ自爆テロが他の爆弾テロより好まれるかが説明できる。
  • 第8章 大量破壊兵器の拡散
    • マクロ経済学的な要点
      • 核兵器の製造は、通常兵器よりはコスト効率が高いとはいえ、非常に高価な事業となり、国の防衛予算の相当部分が取られてしまう。
      • 核兵器を国際闇市場で売ると、軍事計画や社会計画に使える収入が得られる。
    • ミクロ経済学的な要点
      • 化学兵器、生物兵器、核兵器は、通常兵器よりも(低コストで死傷者を出す能力の点で)効率が高い。
      • 国が核兵器を入手販売する意志決定は、供給(物々交換/バーター取引や収入)と需要(安全保障のジレンマと代替効果)を考えて行われる。
      • 北朝鮮とパキスタンはそれぞれ比較優位を持つ財の生産に特化した。つまり機会費用の低い製品の生産に特化した。これにより国際闇市場での取引で両国とも利得が得られる。
      • 条約や協定は国際的な公共財だが、ただ乗り/フリーライダー問題にあいやすい。だから覇権安定理論では、覇権国だけが(国における政府のように)条約を提起してその強制を確保できるものとされている。

 あと面白いと思ったのが『テロリズム』という語のアメリカ国務省の定義。

 事前に計画され、政治的に動機づけられた暴力行為で、非戦闘員を標的とし、国家より小さい集団や隠密エージェントによって実施され、直接的な被害者を超える規模の聴衆に影響を与えたり脅したりすることを目的とし、2力国以上の市民や領土にまたがるもの

おまけ

2009/03/10(火) | 政治経済社会 | 固定リンク |

アラン・B・クルーガー『テロの経済学 人はなぜテロリストになるのか』

テロの経済学

 “自爆テロは路上犯罪より投票行動に似ている。”

 原題は"What Makes a Terrorist"(『何がテロリストを生み出すのか』)だが、著者自ら「"What Doesn't Makes a Terrorist"(『何がテロリストを生み出さないのか』)にすべきだったのではないか」と書評されたことを興味深いと言っており、私もそちらの方が適切のように感じる。

  1. テロリストは十分教育を受けており、裕福な家庭の出である傾向がある。
  2. 社会で最高の教育を受けている人や高所得の職業に就いている人の方が、社会的に最も恵まれない人たちよりも過激な意見を持ち、かつテロリズムを支持する傾向がある。
  3. 国際テロリストは貧しい国よりも中所得国の出身である傾向が強い。
  4. 市民的自由と政治的権利が抑圧されているとテロに走りやすい。

 データばかりで読んでいて面白い本ではないので、あまり他人に読めとは勧められないが、この考え方は正しいと思われる。

参考リンク

おまけ

 常時内戦状態。GTA3はやったことないけど楽しい。

2009/03/09(月) | 政治経済社会 | 固定リンク |

他人の不幸はなんとやら『チェンジリング』オススメ度 9/10

チェンジリング

 先日会社の飲み会で薦められたので見てきた。なかなか素晴らしかった。それまでポスターの印象と「五ヶ月前に失踪した息子が帰ってきたら別人だった」みたいな煽り文句から、完全にB級SFホラーだと思いこんでいたのは内緒である。*1

 1920代のロサンゼルスでアンジェリーナ・ジョリーが泣いて泣いて泣きまくる……と書くと冗談みたいだが、ほぼ全て実話に基づくリアルなタッチの話なので、とてもとても重苦しい。精神的に十分余裕のある時か、もしくは逆に本当につらくて希望とは何ぞやみたいなことを考えている時のどちらかに見るとよいのではないかと思われる。

*1:後で調べたら本当に同タイトルのホラー映画もあるようだ。まあ取り換え子自体は割とポピュラーな単語なので意外でもないが。

おまけ

 全然違うがなぜか連想したので。

ニック・レーン『ミトコンドリアが進化を決めた』

ミトコンドリアが進化を決めた

 『生と死の自然史―進化を統べる酸素』の続編に当たる本。

  • 真核生物とミトコンドリアの進化的起源
  • 老化とフリーラジカルとミトコンドリアとの関わり
  • 内温性(温血)生物のスケーリング則

 など。前著からわずかの期間にも次々と知見がアップデートされている感があってとてもエキサイティングだ。老化に関しては統一的に予防や治療ができるようになる可能性が十分あるのは確からしい。現在のところは、

  • 頭や体をよく使うようにすればするほど老化は遅れる

 という経験的には当たり前のことが、なぜ当たり前なのかということがようやくわかってきたというところだろう。細胞自体が一生更新されない脳や筋肉を適度に働かせてなぜ効果があるのかというと、要はミトコンドリアに盛んな分裂≒淘汰を促して損傷をカバーすることになるからのようだ。

 こちらも十分面白かったのでおすすめだが、細胞生物学の知識が多少ないと読みづらいのと、話の広がり的にも前著の方が面白そうなので、前著がまだの人はそちらから読んでほしい。

参考リンク

関連図書

おまけ

 というわけで脳を刺激しよう。(感性によっては微グロ注意)

2009/03/07(土) | 科学技術哲学 | 固定リンク |

09年02月のマイリスト(2/2)

 09年02月のマイリスト(2/2)。

09年02月のマイリスト(1/2)

 09年02月のマイリスト(1/2)。

タクティクスオウガがバーチャルコンソールに

タクティクス オウガ

 SFC史上に残る超傑作SRPG『タクティクスオウガ』が2月10日からWiiのバーチャルコンソールで配信されているらしい。SFCが現役の人はあまりいないだろうし、PSやセガサターン版にはロード時間などでやや問題があるので、この機会に是非プレイしていただきたい。

 攻略本はあった方が面白いゲームだと思う。何種類かあるがファミ通のものが圧倒的によい。中でもサターン版は二冊分の内容が一冊にまとまっているので一番おすすめだ。ゲーム内容はまったく同一なのでサターン版であることに問題はない。

 下のMIDI版が入っているサントラ持ってるけど、3万にもなっているとはプレミアすごいな……。

おまけ

 これは頑張りすぎでしょ。

2009/02/27(金) | ゲーム森羅万象 | 固定リンク |

無能で説明がつくことを陰謀のせいにしてはならない

(本文とは無関係)

「無能で説明できる現象に悪意を見出すな(直訳:まさか、愚かさによって充分に説明できるものを悪意のせいにする必要なんかありません。)」

Never attribute to malice that which is adequately explained by stupidity.

 というのは、オッカムの剃刀(=思考節約の原理)の系で、レベルの低い陰謀論退治にとりわけ良い道具のひとつ。それは別にいいのだが、これが『まっとうな経済学』の中ではナポレオンの言葉ということになっていた。

 ぱっと見にはナポレオンよりRobert J. Hanlonの方がデータが充実しているので、そちらの方が正しそうだが、こういう時はどう考えたらいいのだろう。

 『捏造された聖書』で出ていた話だが、研究者が聖書の異本の中に意味の通りにくい文と意味の通りやすい文を見つけた場合、まずどちらがオリジナルに近いと見なすかというと「意味の通りにくい方」なのだそうだ。

 というのは、意味の通りにくい部分を意味が通りやすいように書きかえる良心的な書記はよくいるが、意味の通りやすい部分をわざわざ意味が通りにくいように書きかえてしまう悲劇的に無能な書記はほとんどいないからだ。

 伝聞の過程で、無名人の言葉を有名人が言ったことにして権威づけしようとすることはよくあるだろう。だが、その逆をする人はまずいないだろう。意図的でなくとも、思わず有名人と記憶違いしてしまうということはありえても、なぜか無名人と取り違えるということはあまりないだろう。

 だからいろは歌がなぜか弘法大師の作になっていたり、一休さんが別人の言葉を取ってしまったり、日本SUGEEEE!!なただの変なコピペがなぜかアインシュタインの予言になったりする。

 つまり聖書本文解釈と同じような論理で、ある格言の出所を無名な人物とするものと有名な人物とするものがあったら、とりあえず無名な人物とするものの方が正しいと考えるのがよさそうだ。この場合、やはりハンロンの方が正しく、ナポレオンの方は単なるデマだとほぼ断定してよいと思う。

追記(2/25)

 アップ当初『まっとうな経済学』のところが『ヤバい経済学』になっていましたが、私の記憶違いでした。お詫びして訂正いたします。

関連図書

おまけ

 たとえ誰の作であろうがいろは歌は素晴らしい。

2009/02/24(火) | 科学技術哲学 | 固定リンク |

小山重郎『よみがえれ黄金の島―ミカンコミバエ根絶の記録』

よみがえれ黄金の島―ミカンコミバエ根絶の記録 (ちくま少年図書館 83)

 トラウマの話をしていたら別の思い出が甦ってきて、反射的に検索かけて注文してしまった。私の人生最初の、ものすごく面白かった記憶が残っている科学の本が、これなのである。今読み返しても素晴らしく面白い。

 子供向けシリーズとはいうものの内容は高度で、虫の生態から、フェロモン様の誘引物質を使う方法、放射線で不妊化した雄を放す方法まで多岐にわたる。しかし、それを図表・グラフ・写真・地図などを豊富に使って平易な文章で説明しているので、決して難解でもない。

 行政や住民の協力を得ることの大変さ、地道な努力の大切さ、費用対効果を考えることの重要性、科学が偶然と努力の繰り返しによって長い時間をかけて進歩していくこと等々、教訓的な話題がぎっしり詰まっている。

 沖縄について初めて意識したのも確かこの本によってだった。下の引用部に出てくる「ある人」のエピソードも強烈に記憶に焼き付いていて、ああこれは自分の人格形成にかなり影響を及ぼしているなあと改めて思う。

 記憶による美化を割り引いても素晴らしい本だと保証します。全体の印象をよく伝える一節を引用するので、興味を持った人は今からでも読んでください。子供に読ませるのにはもちろん、大人でも十分面白いはずです。

本土出荷をさまたげるミバエ類

 こうして、せっかく沖縄の農業が、野菜や果物の本土出荷に希望を見いだしたというのに、これをさまたげるものがありました。

 それは、ミバエという害虫です。ハエのなかまで、漢字では「実蝿」と書きます。いろいろな果実のなかに卵を産みこみ、幼虫が果肉を食いあらす、おそろしい害虫です。

 沖縄には、これからくわしくお話しするミカンコミバエと、もうひとつウリミバエという、二種類のミバエ類がすんでいます。どちらも日本本土にはいません。

 ミカンコミバエはミカン、オレンジなど、かんきつ類の害虫です。ウリミバエは、カボチャ、キュウリ、メロン、スイカなど、ウリ類の害虫です。また、ピーマンやトマトには、ウリミバエもミカンコミバエも、ともに被害をあたえます。だから、ミカンコミバエは野菜の害虫でもあるのです。

 これらのミバエは、沖縄の果物や野菜に被害をおよぼすだけではありません。この虫がいるおかげで、沖縄の野菜や果物は自由に本土に出荷することができないのです。

 なぜでしょう。

 ミバエ類は、たいへん繁殖力の大きい害虫です。たとえば、一九七二年にウリミバエが沖縄本島に侵入したときには、本部半島で一ぴきみつかってから約一年で全島にひろがり、どこでもウリ類に多くの被害がみられるようになりました。そして、わずか二年後の七四年には、海を越えた鹿児島県の奄美群島の一帯が、この虫のすみかとなってしまいました。

 もしこのミバエが、日本本土に上陸したらどうなるでしょう。きっと野菜や果物に大被害をあたえるにちがいありません。そこで、ミバエの本土上陸を許さないために、ミバエのいる沖縄や奄美群島でつくられた野菜や果物は、本土への自由な出荷が禁止されました。

 やっかいなことに、ミバエの卵は小さく、しかも果実のなかに産みこまれますから、外からは一見、正常にみえる果物でも、ミバエの卵や幼虫が入っているおそれがあります。

 そこで、ミバエが寄生していようがいまいが、自由な出荷を許さないというのが原則なのです。だから、沖縄の農家は、本土にいないミバエという害虫に直接悩まされるだけでなく、沖縄にミバエが一ぴきでもいるかぎり、たとえ健全な果物や野菜でも出荷できないという、二重の苦しみを背負ってきたのでした。

 もし、ミバエが一ぴきもいなくなったとしたら、どれだけ農業収益が多くなるかを、縄県庁で計算したことがあります。それによると、一年で約六〇億円という数字がでてきました。自由な出荷によって、栽培面積がもっとふえることまで考えると、この数字はさらに大きくなることでしょう。

 第二次世界大戦のときには、沖縄は日本の最前線として、地上戦がたたかわれ、多く人が殺されたことを前にのべましたが、ミバエ問題でも、沖縄の人びとは本土にない苦しみをなめなければならなかったわけです。

 わたしが沖縄で仕事をするようになってから、だいぶあとのことですが、ある宴会の席で出た話です。

 沖縄県で長いあいだミバエ防除にたずさわってきたある人が、わたしのそばに来て、こういいました。

「沖縄は、いつまで本土のために犠牲にならなければならないのでしょう。この前の戦争のときもそうでしたが、ミバエにしても、本土にいないから野菜や果物が出荷できない。もし本土にミバエがいれば、こういうことはないはずです」

 わたしは、この人はいったいこれから何を言いだすのかと、だまって聞いていました。

「これは、あくまでも冗談として聞いてもらいたいんですが、わたしは本土に出張するとき、ミバエを生きたままびんにかくし持っていって放そうかなと思うことが、よくありますよ。そうすれば、本土にもミバエがふえて、沖縄の果物や野菜が特別あつかいされなくなるのではないですか」

 この人は、これまでミバエ防除に懸命にとりくんできた人です。そしてわたしは、その仕事に協力するため、わざわざ本土からきた人間です。そのわたしにむかって、とんでもないことをいうものだと、最初のうち腹を立てそうになりました。

 しかし、この人の、けっして悪気で言っているのではない顔を見ながら、考えました。

 本土から遠くはなれて、戦争のときも、こんどのミバエ問題でも、いつも不利な目にあってきた沖縄の人たちのほんとうの気持は、本土に住んでいた人間にはわからないのかもしれません。野菜や果物の本土出荷で、ようやく沖縄農業が生きていこうとしているのに、ただ一ぴきのハエが理由になって、健全な果物さえ自由に出荷することを許されないのです。

 それに、わたしがミバエ防除のために本土から来て、熱心に努力していることを見て、この人なら話しても理解してくれるだろうと、信頼して胸のうちを語ってくれたのではないでしょうか。

「わたしも沖縄のミバエ防除のために一生けんめいやりますから、あなたもどうかよく理解して、日本全体からミバエを追い出すのに協力してください」と、頭をさげたのでした。

 沖縄から自由に野菜や果物を本土に出荷できるようにするためには、二種類のミバエ一ぴきのこらず撲滅しなければなりません。沖縄の日本復帰と同時に、その「根絶防除業」が、費用の九〇パーセントを国庫補助金で、残り一〇パーセントを沖縄県が出してはじまったのは、こうした沖縄農業の苦しみをとりのぞくためでした。それは同時に、日本本土へのミバエの侵入を防ぐためでもありました。

 二種類のミバエのうち、ウリミバエの根絶防除は、沖縄の久来島で一九七二年から七七年まで実験的におこなわれ、みごと成功しました。その経過は、当時、中心的役割をはたして、いまは名古屋大学に移られている伊藤嘉昭さんが、『虫を放して虫を滅ぼす』(中公新書)という本に、くわしく紹介しています。

 わたしは、もうひとつのミカンコミバエについて、これからお話ししようと思います。

おまけ

 やっぱり子供の頃の感受性って全然違うよなあ。

2009/02/20(金) | 科学技術哲学 | 固定リンク |

Rubyでピクロスのソルバ

プログラミング言語 Ruby

 最近Ruby1.9.1が出たので、乗り換えついでに久しぶりにプログラミングっぽい話題でもと思い、ピクロスのソルバを書いてみました。

ファイル

使い方


ruby picross.rb sample.txt

 と問題ファイルを与えると、


  |   2 1 1 2  |
  |   1 1 1 1 3 2|
  | 4 6 2 1 1 2 2 1|
----+----------------+
  4|        |
 2 2|        |
 2 2|        |
  8|        |
  2|        |
 2 2|        |
 2 2|        |
  4|        |
----+----------------+
  |   2 1 1 2  |
  |   1 1 1 1 3 2|
  | 4 6 2 1 1 2 2 1|
----+----------------+
  4|××■■■■××|
 2 2|×■■××■■×|
 2 2|■■××××■■|
  8|■■■■■■■■|
  2|■■××××××|
 2 2|■■××××■■|
 2 2|×■■××■■×|
  4|××■■■■××|
----+----------------+

 のような結果を表示します。解なしなら解なしと判定します。解が一つ以上あれば最初に見つかった解を表示します。複数解になっているかどうかまでは気にしません。

 問題ファイルの形式は、

  • 最初の一行が盤面の高さと幅
  • 次の行からは、一行ごとに
    • 横のヒントを左から順に並べたものを、上から下に
    • 縦のヒントを上から順に並べたものを、左から右に
  • 区切り文字に使えるのは半角のスペースかカンマ

 です。詳しくはサンプル問題のファイルを見て下さい。


ruby picross.rb sample.txt -v

 とオプションをつけると途中経過も表示します。この場合よほど単純な問題でなければ長くなりすぎるので、


ruby picross.rb sample.txt -v > result.txt

 などとして、後で結果を書き出したファイルを見るようにした方がいいでしょう。大きな問題でも時間とRubyの許す限り解けるはずですが、ヒントの数字が3桁に達するような場合は、表示されるのは下2桁の値だけになります。

 ちなみに単純な計算を山ほど行うので、1.9.1では1.8系より目に見えて早くなりました。うちの環境では30×30の広さでも数秒、さらにスカスカの難しそうな問題でもせいぜい30秒程度です。

 あまり巨大なのは問題が見つからなかったので試していませんが、人間が解くことを想定しているような問題なら大体リーズナブルな時間で解けるのではないかと思います。

 また、一番面倒くさかったのは解かせてみる問題を打ち込むことでした。入力した問題があったらメールフォームからでも送っていただけるとありがたいです。もちろん著作権のあるものは公開できませんが。

追記(2/20)

 横に細長い問題の扱いでバグがあったので修正しました。

追記(2/24)

 途中経過の表示時に「★」マークを出力するようにしました。結果ファイルで「★」を次々に検索するようにすれば簡易アニメーションのように見ることができるようになるはず。

おまけ

 誰が得すんだこのTAS。

2009/02/15(日) | WEB情報通信 | 固定リンク |